忍者ブログ

くろいぶろぐ

千葉県辺りで同人誌とか描いてる黒井ちゃっこのどうでもいい事す
HOME  >    >  [PR]  >  小説  >  断片反芻「黒の址」
[40]  [39]  [38]  [37]  [36]  [35]  [34]  [33]  [32]  [31]  [30

[PR] 

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

断片反芻「黒の址」 

公園沿いの桜は、雨に濡れ輝いて
それは足を止めるのに十分な理由だった
脇を通り過ぎる車のヘッドライトが、時折木々を眩しく映し出し
一瞬、脳裏と網膜に反転した桜が焼きつく

季節はもう4月だった
あれからまだ10ヶ月しか経っていないのかと、そう思うと複雑な気分になる
勿論4月だからといって浮かる気分ではないし、あの頃よりかは少しだけマシになった精神状態も
そんな季節の移り変わりを重ねる毎に薄れるのかと思うと酷く嫌になる
だからあの時の約束は絶対に忘れない、守り続ける
守れなかったあいつの為に、何も出来なかった自分の戒めに

―――ただ、綺麗だなと思った
そういえばあいつは桜を見た事があるのだろうか
施設にでも植えてあったら見れていたかも知れないけど
大方あの小さい部屋に隔離されて外出する事なんて出来なかっただろう

ふつふつと怒りが湧き上がってくる
その矛先は次第に自分へと向かう
何故、あの時救えなかったのだろう
いやそんな事を思うのもおこがましい
自分には何の力も無かったし、状況を脱する何かを持ちえていた訳でも無い
見ている事しか出来なかった
血塗れで、冷たくなる体を抱きしめて絶望するしかなかった
微笑んで頬に触れてくれた指の感触を思い出す
呼びかけても呼びかけても返事を返さないあいつを

本当にただ、抱きしめるしか出来なかった

10ヶ月経った今でも感触すら鮮明に思い出す
この組織に身を置いてから色々な事があって、これからも様々な事が起こるのだろう
今は違うはずだ
あの頃の、無力感に苛まれていた自分ではないはずだ。

誰も居ない公園をただ歩く
点々と灯る常夜灯があの頃と変わらない姿のままそこに在る
東屋のベンチに腰を下ろすと、視野には桜の木々が広がる
霧雨が穏やかに体を包むと月が朧げに姿を現した
俺は中空に手を伸ばし掴める筈の無いソレを納める

―――びゅうと風が凪いだ
雲が薄くなる、この調子なら明日は晴れるか
目を閉じると瞼の裏から暖かな光が薄く届く
大きく息を吸いこみ、吐き出す
少しだけの逡巡

ベンチから腰をあげると目の前に一枚の花弁が流れてきた
それを無意識に掌に乗せた
いつか絶対に桜を見せよう
そしたらあいつは子犬みたいに喜ぶだろうな
コートのポケットにそれを仕舞い歩き出す

4月の夜
黒の址
遠くでカラスの鳴声が聞こえた
 
PR

COMMENT

Name
Title
Mail
URL
Message
Color
Pass   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
Secret  チェックすると管理人にのみ表示されます。

TRACKBACK

TrackbackURL:

カレンダー

02 2024/03 04
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31

フリーエリア

最新トラックバック

プロフィール

HN:
くろいちゃっこ
性別:
非公開

バーコード

ブログ内検索

P R

アクセス解析

Copyright © くろいぶろぐ All Rights Reserved.
Photo by 戦場に猫  Template by katze
忍者ブログ [PR]