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千葉県辺りで同人誌とか描いてる黒井ちゃっこのどうでもいい事す
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ショートショート「待ち合わせの間」 

うう、寒い
もう四十分も待ってるのに、ヤツは一体どういうつもりなんだ
そもそも待ち合わせの度に毎度毎度遅刻してくるヤツなんてあいつくらいだ
寒風吹き荒ぶ1月6日
出来るだけ早いうちに初詣に行きたいと言い出してから、何だかんだと6日が過ぎ
あいつの誘いを待っていた私は、痺れを切らして自分から誘ってしまった
今が華、4月には高校二年
そんな新年だ
大体行きたいと言ったのはあっちなのに、なんでこっちから誘ってしまったんだ
あの時の私め
駅前の階段、その脇にあるベンチで私は今か今かと体を震わせながら待ち続けている
勿論この寒いのに座ってなんかいられない
出来るだけ陽光の射し当たる所でポケットに手を突っ込み、足踏みをしながらきょろきょろと辺りを見回している

なるほど
6日ともなると駅前はそれなりに人の往来があり、車も走る
明日になれば仕事始めが待っている社会人の皆様方は、本日を120%満喫しようとでもいうのか
妙齢の方から耳元が寒々しいフレッシュマンが奥様、あるいは彼女を連れどんどん目の前を通り過ぎていく
別に悔しくなんか無いけれど、駅前を一人で待ち続けるのはひどく心細いものだ
誰かを待つのがそれほど好きではない私がよくもまあ、あいつを律儀に待っているものだ
我ながら感心してしまう
時刻は12:50
さて、待ち合わせは12時きっかりのはずだったのだが
一向に来る気配が無い
携帯電話の一つも持っていればいいのだけど、生憎持ちえていない私は
近頃めっきり姿を消してしまった公衆電話を探す事にした。

 まったく、文明というのは便利になるだけなって
それについてこない人間に対しては非常に冷酷な物なんだな
年配の方やそういうのが嫌いな私に対して喧嘩を売っているとしか思えない
ぶつぶつと、ようやっと見つけた公衆電話に入る。
駅前から少し離れてしまったが、あるだけ良かったと思うしかない
電話ボックスの中は心なしか暖かく感じ、ポケットから出した手がじんわりと熱を持っていく。
カバンからアドレス帳を取り出しそれほど乗っていない住所録から
今も尚絶賛遅刻中の遅刻魔人 遠薙瑞樹を探し電話をかける。

公衆電話にもいくつか種類、というか緑色と灰色の筐体の2つがあって
今かけてるのは緑色の古いタイプの電話だ
個人的には緑色のヤツが一番好きなのだけど、灰色のちょっとハイテクなのも琴線に触れてしまう。
なんたってあの音声を大きく出来る機能が素晴らしいし、画面に通話可能時間の概要が表示されるのも親切だ
灰色の電話が出来てすぐ、私はそれが使えなかったのだが
その多機能さに感激したものだ。

しかしながら、私の友人の一人は携帯電話持てばいつでも電話できるんだよ
明日の用事とか全然わかるんだよ!と言って聞かない
私にとっては用向きが無ければ電話などしないし、それを常時携帯するというのは考えられない
それでさえ私達は学生だ、土日を除けば翌日会える
大切な用事ならばこそ対面で言うべきだし、それを取り次ぐ為の手段としての電話ではないだろうか。
気軽にヒマだから電話をする、というのは全く持って理解できない。
ましてやメール等に絵文字なんて有り得ない
接頭接尾、至る所に可愛らしい猫や動物の絵文字を入れ
文字と記号を組み合わせては一字とする、一種暗号めいた組み合わせの文字列で私達の年代は意思表示の一つとして用いている
君らは何だ、警察の暗号試験でもやっているのか
友人のメールを興味本位で見せてもらったが、その時は猛省した
しかも男からのメールだ、全く持って頭痛と吐き気を催す。

一昔前のポケベルだって我が姉様は「面倒臭い!」と放り投げていたし
私にも幾ばくかその血液が流れているのだろう

さて、3回目の留守番電話に繋がった
前二回はメッセージを入れる前に切ってしまったが、今回は入れてみようと思う。
「ピーという発信音の後にメッセージを入れてください ピ―――
私だ、今日の予定は一体何時だったか覚えているか?待っているから早く来い」
必要な事だけでいい、それで分かるのだから。
ガチャと受話器を置き、冷え切った指先を温める
扉に手をかけ電話ボックスを出る。
時刻は13:04
徐々に日が落ちていく最中の、まだぎりぎり暖かい時間
これがあと3時間も経ったら寒くて私は動けなくなる
相変わらず強めの風が吹く最中
てくてくと駅までマフラーを直し直し向かう
ともすればこんな時間から雪が降りそうな寒々しい気温の中、よくも私をこんなに待たせてくれるものだ
通り過ぎる人々はやっぱり何か楽しそうに見えて、少し悔しい
早く来ないものだろうか、まさか何かあったのではないだろうか
家族の何某かが事故で、瑞樹が付き添いで行ったのかもしれないし
前方不注意のアイツだ、ここに来る途中車にでも撥ねられてしまったかもしれない

・・・非常に心配になってきたぞ
もし仮に良くない事態が起こっていて、ここでぼーっと待っているのは
非常になんだ、その間抜けだ
しかし全く違うかもしれない、ただ単にいつもの遅刻なのかもしれないし
こうやって考えているのが只管に杞憂であるかもしれない
むしろその方が良い

否定と肯定をぐるぐると繰り返していくうちに頭がぼーっとしてきた
まったく、なんでこんなに考えさせるんだ
そもそもあいつから告白してきたってのに、今じゃあ立場が逆転してるのがいやらしい
ぐぬぬ、私の計画がっ
あいつが来て開口一番何を言ってやろうか
恨み辛みを小1時間程隣で言ってやってもいいし
あえて無言で隣を歩くのも良いな
うん、ちょっと楽しくなってきたぞ

曇りと晴れを交互に繰り返し、やがて空から小さくて淡い雪がゆらゆらと落ちてきた
とうとう降ってきたか
そう言っている傍からひらひらとふわふわと、その数を増してきた
私は降り注ぐその一つを掌に乗せる
雪の結晶が見えればいいのに
そう思った矢先、私の体温でそれは融け失せてしまった
「はぁ」
溜息までも白く、往来の人々はいつの間にかその姿を消していた
そしてとうとう私以外誰も居なくなってしまった
待ち合わせはここ、時間は1時間と20分前
深々と降り注ぐ雪でどうしようもなく凍える
帰ろうという気は微塵も無い
だからといってここを動くつもりも無い
もう一度大きく息を吐く
雪と同じくらい白い溜息が漏れる
空を見上げたら鈍い色の青が泣いているように思えてきた

まったく、泣きたいのはこっちなのに。

不意に、遠くで何かが転倒したかのような衝撃音が聞こえる
やれやれ
次いで自転車を起こし、こちらへ走りよって来る影一つ
そんなに急がなくていいのに
クスと笑ってしまう
息を切らせてごめん、なんていう
息継ぎで全く言えてないけど、きっとそう言っているんだな
まったく男のクセに情けないぞ、そんなに急がなくても
私はいつでも待っているのに
瑞樹は呼吸を整えてもう一度「ごめん」とちゃんと目を見て言った
それが嬉しくて、少しこそばゆい
無言のままの私を見て、子犬のような目で私を見てくる
うん、やっぱりいいなこういうの
瑞樹は私の言葉を待っている、多分どう言うかも分かってると思う

―――さあて、なんて言ってやろうかな。
 
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